西東京市多文化共生センター
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     NIMIC通信 No.81(2013年2月)
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┏ [7] キーワードを読む
       「多文化共生」について理解を深めるために(76)
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 NIMIC設立の理念のなかで大きなウェートを占める「多文化共生」。 この言葉をキーワードに、2006年9月号から多文化共生に関わる本の紹介を始めました。
 第76回目の今回は、莫言(モオイエン)の「蛙鳴(あめい)」です。

 『蛙鳴』莫言 作 吉田富夫訳 中央公論新社 2011年5月 \2,800

 作者は、1955年に中国山東省高蜜県で農民の子として生まれ育ちました。60年代幼くして文化大革命に遭い、小学校を中退。兄の教科書や小説を読み文学に目覚めました。76年人民解放軍に入隊し、軍に在籍しながら執筆活動を開始。短編から長編まで作品は多く、農村を舞台に農民の生命力を描いています。『赤い高粱』(抗日戦争を描く)は超芸謀監督により映画化され、88年ベルリン映画祭金熊賞を受賞。『蛙鳴』(2009年発表)は〈一人っ子政策〉を真正面から取り上げた作品で、2011年に中国の茅盾文学賞を受賞しています。

 476頁という長編ですので、ごく簡単に内容を紹介します。
 中国人脚本家から信頼する日本人文学者へあてた書簡という形式で書かれた第1~4部と戯曲の全5部からなります。話し手は作家のオタマジャクシで、伯母を中心に自分や同級生たちの人生を描いています。
 伯母は近代医学の知識を身に着けた産婦人科医の万心(ワンシン)です。
 まだ医学的な出産知識などなかった農村高蜜県で、戦後のベビーブームにほとんどの赤ちゃんを取り上げて感謝と尊敬を集めますが、やがて人口抑制政策が始まり…紅衛兵につるし上げられ…
〈一人っ子政策〉の実施のためには非合法妊娠の摘発・堕胎…。
 中国社会の根幹である家族制度を揺るがす変化が、農村のくらしの移り変わりとともに描かれて、必死に生き抜いていく人々の姿に、〈生きる〉ことの重さを感じます。
 非常に率直に書かれたこの本が中国で出版されて賞を受賞したことに驚きました。様々な受け取り方もあるようですが、2012年のノーベル文学賞を受賞したことで中国国内でも、世界中の人々にもより広く読まれることでしょう。中国現代文学をもっと読まねばと思いました。
 著者が来日した折りの講演録の翻訳がインターネットで手に入りますので、興味のある方はご覧ください。
 莫言氏『蛙鳴』刊行記念講演会:2011年7月27日中央公論新社にて

  (NIMIC会員 根本 百合)


 
 
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